〇フィクションとリアル

 乃木坂の映像作品や舞台作品に触れるとき、フィクションとリアル、虚構と現実をを意識することがたびたびあります。もしかしたら自分だけかもしれませんが・・。8thシングルの「乃木坂の4人」、ペアPV「あわせカガミ」など、はじめてみた時はその緊張と刹那に震えました。個人的にそうしたお芝居が好きなだけなのかもしれません。14thの伊藤万理華個人PVもなんだかとても期待がもてそうです。


伊藤さんが演じるフィクションと、伊藤さんのリアル。
それらは、全部、伊藤万理華。

               -3月9日 頃安祐良監督ツイッターよりー 
 



 今から30年以上も前の話しになりますが、NHK特集で「川の流れはバイオリンの音」、という番組が放送されました。ある女性がイタリア、ポー川を旅す る物語。ヴァイオリンの工房を訪ね、そこで出会う人々とさまざまな音。女性のゆったりとした語りとともにすすむ、ストーリーがあるか無いかわからないよう なストーリー。
川の流れは

  ドラマを見ているのか、ドキュメンタリーを見ているのか、どっちかわからない。だけど妙にリアルというか、今までに見たことのない、感じたことのない不思 議な感覚に襲われました。当時自分は中学生。現在ではよくある映像表現かもしれませんが、当時はその生々しい雰囲気にドキドキしたことをよく覚えていま す。

 評論家の香月孝史氏が、NdN誌において高橋栄樹監督に「佐々木昭一郎さんの作品のような雰囲気」、と話題を振っているのはこのへ んのお話し。「あわせカガミ」で生駒と万理華にラフな設定だけを与えておいて、あとは自由に演技させてみる。どの瞬間に演技に入るかは役者の呼吸次第。演 出でないような演出。これに大いに共感してしまって、香月氏のツイートに返信したらとても丁寧な返信をかえして下さいました。

〇「じょしらく」という芝居でみせたリアル

  舞台「じょしらく」は面白い舞台でした。しかし、ただ面白いだけの舞台だったわけではありません。終盤にちょっと考えさせられるシーンがでてきます。果た して自分は落語家なのかアイドルなのか。演じているのか演じていないのか。物語が二重に交錯してきます。この場面で、ほとんどの観客(乃木坂ファン)は、 芝居を通り越して魔梨威を演じる演者(優里・松村・みさ先輩)の境遇やグループ内での立ち位置にまで思いを巡らせて観ていたはずです。あの日、AiiAシ アターに存在していた演劇空間とは、舞台上で演じられていた二重的な世界と、観客に心の内に惹起したメンバーのリアルな世界が幾重かの層になって存在して いたものだったと思います。
特に、松村は魔梨威を演じる松村を超えて、そのままの「松村沙友理」でした。フィクションとリアルを同時に成立させた素晴らしい演技でした。ドキドキが止まらなかったです。
(のちに、彼女はブログでこの時の心境を振り返ります。「台詞に人生をのせて」という名言がここで誕生します。)
松村じょしらく

  あと、手寅の「演じているよ。演じているけど、嘘とは違うんだよ」という場面。この台詞にもフィクションとリアルが伝わってきます。以前に伊藤万理華が、 「アイドルとしての自分がわからない」的なことを述べていたのを思い出します。彼女に限らず、みんな自分の本当の姿とアイドルとしての自分の姿、そこに悩 みや葛藤を抱えて生きているんだと思います。
万理華てとら

〇魅力を伝えるもの

 発売されている映画「悲しみの忘れ方」のDVD/BDの中にブックレットがあります。そして、その中に今野さんと玲香の対談が掲載されています。最初のプリンシパルでメンバーみんなが苦戦した、1分間自己PRについて、今野さんが次のように語っておられます。



 1分間で自分の個性を伝えるというのは、簡単そうだけどとても奥が深いと思う。自分としっかり向き合わないといけない。 自分とは何か? それを表現するという、エンターテインメントの基本を体験してほしかった。



 今野さんが考える、エンターテインメントの基本がよくわかるし、そうあってほしいと思います。 玲香も続いて語ります。



 結果的にはあの体験は自分たちのなかではとても糧になった、大事な経験でした。あれがなければ深みのない、薄っぺらのアイドルになっていたと思います。



 ネガティブなところも含めて自分としっかり向き合う。それを伝えていくことを通して魅力もまた高まっていくのだと思います。幻想かもしれませんが、ファンとのコミュニケーションや信頼関係みたいなものも醸成されていくのでしょう。
玲香

〇自分とは何か?

  自分とは何か? について考えるとき、フィクションが大変よいヒントになるときがあると思います。真剣に、真面目に考えれば考えるほど、自分ってわからな くなります。でも、なにかを演じたり、ロールプレイすることで案外自分でも知らない自分が発見できたりするものです。 (ジョハリの窓)
 昨年、 演技を通してブレイクスルーを果たしたメンバーを何人も見ました(もちろん個人の印象ですが)。前述の松村沙友理、北野日奈子、伊藤万理華もそうでしょ う。だけど、まだ自分を掴み切れてない、伝えきれてないメンバーもいると思います。中元日芽香、寺田蘭世、斎藤ちはる。出来ることなら、昨年以上に機会を 作ってもらってより多くのメンバーに、演技に触れていって欲しいです。そのなかで、新しい自分を発見し、或いは向き合い、そうすることで、私たちにさらな る魅力を伝えてほしいと思います。
北野



















                                                 (ライター:だいせんせ)