〇月刊エンタメ誌での対談



現在発売されているお二人の対談について、あれこれ思ったことを抜粋しながらいくつか短く・・・。



それまでどういう音楽をやってきたり、聴いてきたかというインプットの部分が重要になってくるんじゃないのかな。逆に言うとインプットにないものは、アウトプットできないというか・・・。(杉山)


この「インプット」ですが、昨年参加した早稲田の講義で驚いたのは、『一番綺麗な私を』(中島美嘉)はゴッホの作品から着想を得て、点描を音楽で表現しようと思って作った、というお話し。インプットというのは音楽に限った話しではなくて、作家のすべての経験や体験が含まれるということ。今年参加した別の講座の中でも、「その人の音楽的ルーツや音楽的な嗜好、その人の顔が見えてくるような作品のほうがいい」と述べられていました。コンペ作品の中には、いろいろな作曲技術だとか音楽的知識が総花的に盛り込まれているものもあるらしいのですが、かえって魅力を感じないとも。対談中でAkiraさんが、“音楽的偏差値が非常に高い”と表現されているのは、単に技術に優れているということを指したものではないと思います。
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『今、話したい誰かがいる』は杉山さん楽曲が作った「乃木坂らしさ」のフォーマットの上で作った曲ですから。(Akira)

個人的には『ハルジオンが咲く頃』もそれに近いのかなと思ったりしますが、Akiraさんのほうがバリエーションが豊富という印象もありますし、キャッチーだったりインパクのあるサビから入ることが多いAkira楽曲もまた「乃木坂らしさ」だったりするのかなと思います。
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『君の名は希望』は(中略)、構成も普通のA→B→サビじゃなくて、かなり変わった作りになっている。(杉山)


『羽根の記憶』のMVに出演された指揮者の中島章博さんにインタヴューをさせていただいたとき(※インタビュアーはmixiコミュ「やっぱ、乃木仮だな!」メンバーのろそとぶさん)、まったく同じことを仰っています。「かなり新鮮というか斬新だった」(2015年7月29日:乃木仮めんばーよりhttp://nogizaka46democracy.blog.jp/archives/38282508.html)

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楽曲分析系のブログ等でもしばしば取り上げられる話題ですが、従来、コードの解析や解説が中心だったところに、「楽曲の構成・様式」という要素が登場して大変新鮮でした。個人の印象に過ぎませんが、それまでPops、とりわけアイドルの音楽を遠ざけていた人たちが反応を示した箇所もこのあたりかなと思います。(特にクラッシック畑の方々)

ちなみに、中島さんと杉山さんは同じ早稲田大学の同じ学部、学科。年齢も同じ。なにか運命的。


歌謡曲的なメロディーをアイドルに落とし込んでみたのが『気づいたら片想い』(Akira)

70年代終わりから80年代にかけて「ニューミュージック」と呼ばれたジャンルがありましたが、そうしたものにも近い印象があります。そもそも定義があいまいで歌謡曲との境目も判然としない分野なのですが、寧ろSoulifeのお二人が作った『孤独兄弟』のほうが当時の歌謡曲の(意識的という意味での)「匂い」がいっぱいして、Akiraさんの曲はあるフォーマットに落とし込んだとしても、やはりどこか洗練されているなぁ、みたいな印象。


プロとアマの違いはどこかというと、「感動の再現性」を意識的に作れるかどうかだと思うんです。そういう研究を重ねてきた結果が『サヨナラの意味』なんですね。(杉山)

仰ってることが凄すぎて!よくわかりません笑。平凡な部分と変化の部分、その配分とか比率をものすごく研究して作った曲だとも述べられています。『サヨナラの意味』のどの部分を指すものなのか?、ずっと考えているのですがまるで考えが及びません。記譜上は三連符にはならないものの、二拍三連的なメロディーの進行には隙間があって、かつ四拍子よりも二拍子と捉えれば余韻から情景を連想しやすい。AメロからBメロへの移行では緩急がついているし、輪唱→ユニゾン→コーラス、そしてサビでの全体合唱とドラマチックに盛り上げる構成も非常に考察されている感じ。郷愁感や切なさの中に、力強さを加えるのに適した三連リズムだったのかなと思います。


そもそも僕、恥ずかしながらメンバーのことをよくわかっていないんですよ。(杉山)


自分は逆。僕、たぶん作曲家陣の中で一番乃木坂46が好きじゃないですかね。(Akira)

今回の対談記事で一番面白かったところ。メンバーに対してあまり突っ込んだ興味を示さない杉山さんと、バラエティー番組まで全部チェックしてキャラの把握をしているAkiraさん。『無表情』とか『隙間』、ほんといいと思います。

(熱心にご覧になっているご様子笑)

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プロファイリングを固めてから、ようやく書き始めるので。(杉山)


自分はまったく逆のパターン。僕の場合、まずサビ頭の2小節が重要。(Akira)

Aメロからの流れを掴みとする杉山さんと、サビからの入りを掴みとすることの多いAkiraさん。お二人の特徴の違いがよくあらわれている部分。インタビュアーの「普段、杉山さんは詞先なんですか?」という質問に対する率直な答え。この部分は直接本を買って読んでいただきたいところ。仮歌詞をつけることから以前にはあらぬ誤解もあったようですが、要はそういうことだと思います。



僕は杉山さんが作った乃木坂46のイメージをいい意味で壊していきたい。(中略)新しい表現を作っていきたいんです。(Akira)


もっと楽曲面もシンプルになっていってもいいのかもしれない。(中略)乃木坂46が新しい表現を作るとしたら、僕はそういうところじゃないかと思う。(杉山)

お二人がともに、「新しい表現」という言葉を使っています。既存のものをいい意味で壊していこうとするAkiraさんと、それらをより研ぎ澄ませていこうとする杉山さん。目的や課題を共有しながらも、それぞれ違う角度からアプローチしていこうとする二人の姿が伺えます。それは必ず楽曲制作において反映されていくことでしょう。

杉山勝彦とAkira Sunsetという乃木坂46楽曲の作曲家陣を代表するこの二人は、これからもそうした楽曲制作を通して、ひとつのイメージを保ちながらも決して多様性を失わないという乃木坂46の価値と魅力を維持し続けるだろうし、さらに、我々ファンをも巻き込んで乃木坂46をより高い頂へと導いてくれると自分は信じています。



                                 (だいせんせ)